原付にもうまく乗れない

エンタメと酒で生きる会社員

ヅカオタがワインエキスパートに合格した話

  • まえがき

タイトル通り、今年、ワインエキスパート試験にストレートで合格した。


勉強の最中、知識をインプットするだけの日々に、頭爆発、発狂寸前だったのかもしれない。

頭の中は試験が終わったら何をしよう・・?というハッピーな妄想に取り憑かれていた、ほぼアル中状態の2次試験勉強終盤、ふと、

「せっかく学んだことを、何らかの形でアウトプットしたい、何か書きたい・・・」

と無性に思うようになっていた。

 

そして、できればただワインについて記述するのではなく、私のライフワークである宝塚歌劇やエンタメなどについても、今回学びを得たお酒やワインという視点で文章を書きたい、と思うようになった。

 

  • 受験までの経緯~ブログを書きたくなった理由

ただの会社員(非飲食産業)の私は、ちょうど一年前の今頃、ほぼ衝動的に「ワインエキスパート*1に合格したい」と思い、受験を決意した。

 

思えば、仕事で忙殺されるだけの日々に、身も心も疲れ切ってしまっていて、仕事に1ミリも関係ないことにパッションを注いで現実逃避したいという気持ちの表れだったのだと思う。心疲れた社畜は、自分のリソースを、仕事とは全く関係のない勉強に割くことで、会社に対しての密やかな反逆を目論んだのである。


ワインエキスパートには1次試験と2次試験があり、1次試験はCBT方式*22次試験は地方ごとの会場でのティスティング試験となっている
(ソムリエ試験はこれらに加え、3次試験として実技試験が実施される。)


いわゆるワインスクールに通って合格を目指すという方も多いようだが、私は基本的には独学という形をとった。

なぜなら、

土日などに急に贔屓や推し関連の予定が入るかもしれないのに、毎週決まった曜日を授業に捧げるなんてことはできない」

と思ったからである。(我ながらこれは英断であった)


学んでいく中で、ワインエキスパートの独学での勉強方法について、自分自身が様々な方のブログなどの情報を参考にしたこともあり、もし合格したら自分の経験談も誰かの役に立てば良いなという気持ちを持ち始めた。


しかし私は、それ以上に、この膨大な知識量を要求されるワインエキスパートの試験勉強の中で、


「これ…宝塚で…見たやつ…!」


と宝塚やその作品の歴史・地理との関連性に気づいたり、逆に、ワインの勉強をしてから宝塚の作品を見たときに、


「これ…ソムリエ教本*3に載ってたやつ…!」


と発見したりすることが多く、まさに進研ゼミのマンガでよく出てくる、

これ…進研ゼミで勉強したやつ…!」

というシチュエーションに出くわしまくり状態で、ワインの知識を得たことで、宝塚歌劇の作品をより楽しめている気がする!という、謎の多幸感に溢れてきたのである。


そして、「合格したら…きっと…!私は、この気持ちをブログにして書き連ねたい…!」と思うに至ったのである。

 

このブログエントリを、ワインエキスパート受験を目指す方が読んでいただいているのか、ヅカオタの方が読んでいただいているのか、はたまたなぜかここに行き着いてくださったのか分からないけれどなんとなく興味を持ってくださった方が読んでいただいているのかはわからないが、最後までお付き合いいただければ幸いである。

  • ワインエキスパートを目指したきっかけ

私はただの酒が好きなヅカオタである。特にワインにくわしいということは一才無かった。

 

直近の贔屓*4はすでに退団してしまったが、宝塚歌劇とともにある生活を20年以上過ごしているので、おそらく今後も私は付かず離れずのヅカオタとして生きていくだろうが、

それと同じ熱量とまではいかないまでも、同時に私は酒好きでもあり、成人以降は、お酒も私と共にいてくれたと思う。

 

私はかつて開催されていた、宝塚歌劇検定1級*5を持っている。

 

これは自分が積み重ねてきた「好き」は、一体どれくらいのものなのか、試してみたいと思ったから受験したのだと思う。

 

しかし、私はそこそこにお酒を飲むことが好きなのに、お酒のことを知っている、という感じは全くしないなと思っていた。

 

学生時代は、「ビールサーバーからビールを注ぐ経験を生きているうちに一度はしてみたい!」という理由で居酒屋でのバイトもしていたが、お酒についてちゃんと学んだことはなかった。

お酒の場でせっかく教えてもらったことも、酔っ払っている自分の記憶力は虫以下にも程があり、翌日いや、数分後には頭から消えている。そうやって聞いたことが正しいかどうかも、自分ではよくわからない。


特にワインにおいては、良くも悪くも必要となる前提知識が多すぎるが故に、また、カタカナも多く、全く頭に入ってこない……知りたいけど、謎に高く感じるハードルはなんだ……みたいな感情を持っていた。


ワインエキスパートという名前は聞いたことはあったが、何やらワインにとても詳しそうな、蘊蓄人(うんちくんちゅ)*6のための資格だと勝手に思っていて、自分には関係のないものだと思っていた。


そんな折、よく行くお店で知り合った女子*7が、受験年の4月頃から勉強を始めてワインエキスパートに合格したというのである。(1次試験:7-8月、2次試験:10月なので1次試験勉強は実質3ヶ月程度で合格。)

ストレート合格率は約35%(ワイン受験.comより)とも言われており、いかに彼女がスーパーガールであるかわかると思う。

www.wine-jyuken.com



シンプルに「カッコイイ!」と思った。心の奥がワクワクする感じがした。


そして同時に自分もチャレンジしたい、ちゃんとワインのことを勉強してみたい!と思った。

蘊蓄人を恐れることなく純粋に酒を楽しみ、正しく、かつ、体系だった知識を持ちたいと思った。


  • もともとどれくらいのワイン知識だったか

もともとお酒はビールもウイスキーもレモンサワーも日本酒も焼酎も好き(要は全部好き)で、ワインもそのうちの一つという感じで飲む程度だった。

出張や旅行で行った先の料理やお酒を楽しむのも好きなので、たまたまカリフォルニアに仕事で行った時には、1人、ルンルンでワイン列車にのったり、ワイナリー巡りをしたりしたことはある。


ただ、品種なんてほぼなにもしらず(ピノ・ノワールは聞いたことあるかな・・・シラーは濃いんでしたっけか・・・程度)また、普段飲むワインはよく行くおみせでいただく非フランスの自然派インが多かったこともあり、試験勉強の土台ともなるフランスワインはあまり飲む機会が多くなかった。

私は受験する前年(2021年)の10月頃から独学で勉強を開始した。

試験勉強開始当初、噂には聞いていたが、いざ本当にソムリエ教本が手元に届くと、あまりの分厚さに絶句した。

これでうっかり人を殴ったら簡単に死ぬであろう、800ページ超のソムリエ教本を目の当たりにし、まず、私の心がボコボコに殴られた。

大学受験のときの予備校で使ってた世界史の参考書の3倍くらいあるやん…?

それどころか、世界史好きが買ってしまいがちな(私も持っているが)、山川出版社詳説世界史研究(A5版×600ページ弱)をはるかに凌ぐ分厚さやん…?(しかもA4版で…?)

壊滅的な写真センスのために分かりづらいが、体感厚さ10cmの凶器こと教本
しかし、ソムリエ教本を拝んだだけで、そのままソッ閉じするわけにはいかない。同じ分厚い本でも、勝手に郵便受けに入れられるタ○ンページならいざ知らず、そこそこの値段*8を支払い、わざわざ購入したのである。
ボコボコでバキバキの心をなだめすかしながら、私は地道に勉強を進めていった。
(勉強方法等に関するガチな話は、別エントリでいずれ書きたいと思っている。)

そんな中で、ことあるごとに、自分の持てるヅカ知識と、教本に書かれていることを、結びつけたりしてたのしむのがヅカオタである。

 

ワイン勉強を通じて、ワインの知識が増えていくのは言うまでもなく、

 

宝塚歌劇のこの作品の舞台のこの地域のワイン…!」

と思いを馳せてみたり、また逆に、意外と宝塚でもワインに絡むような作品もあるので、

「宝塚を見たことがないワイン好きの人も、宝塚の作品を見てもらえたら、ワインの観点でも楽しんでもらえるのでは?」

 

と思ったりすることがたくさんあった。


また試験勉強の最中で、ワインを学ぶことを通じ、知識的なトキメキ(≒ヅカ知識とワイン知識や地理・世界史の知識の点と点が線になり、勝手にウキウキすること)をたくさん味わった。

 

例えば、

 

「おいオヤジ!トカイワインを出せ!ハンガリーのな!」(©「エリザベート」*9

でヅカオタにはお馴染みのトカイワインってこんなワインだったんだ*10

とか
 
「Santé!!~最高級ワインをあなたに~」*11の一場面で、ワイン香であるフランボワーズ、レモン、ピーチ、オレンジなどに扮したキャワイイ娘役たちが1人ずつトップ男役と絡んだあと、オチとしていかつい男役が緑のドレスを着て、ピーマンに扮して登場するのは、これか、
"カベルネ・ソーヴィニヨン等に含まれるイソブチルメトキシピラジン*12!!!"(オタク早口)
 
とか
 
ME AND MY GIRL*13で、ロンドン下町育ちの主人公ビルが、貴族が持っていた200年ものの高級ワインのことは「ワインは腐ってるからいらなねぇよ!」と、とんちんかんなことを言って興味を示さないのに、別のシーンでシェリー酒の方は美味しそうに飲んでる背景はこういうことか…?*14
 
といった知識的なトキメキを沢山得た。
 
また実際に自分が受験した1次試験にて、
 
「ブトウ栽培やワイン作りを奨励し(中略)マケドニアを率いて戦ったのは誰か?」
 
というような問いが出てきて、頭から消えかけていた教本と世界史の知識を遡りながら、はたと
 
「そういや、瀬奈じゅんさん、めちゃくちゃマケドニア率いてたわ!」
 
と思い出し、ヅカ知識のお陰で事なきを得たこともあった。
いつでも大事なことは、ヅカが教えてくれる。*15
 
これ以外にも、ワインを扱った宝塚歌劇の作品や、全くワインとは関係ない作品も含め、
ワインの勉強を通じて、地理と世界史の再インプットもできたお陰で、たくさんの知識的なトキメキを得ることができた。
  • さいごに〜ワインを勉強してみて思うこと
ワインを勉強して、よかったなと思うのは、レストランやワインショップに行って、ワインを見る時の解像度が高まったことである。
 
以前、ヅカ以外を専門とする友人が、
「ヅカオタは、マツケンサンバを見る時の解像度が高すぎる」
と言っていたのを思い出す。
 
どういうことかというと、音楽番組などでマツケンサンバを演奏する際に、バックダンサーの女性達にかなりの確率で多数の宝塚OGが含まれていることが多いのだが、
ヅカオタはその顔と名前を一致させることができるため、
「ただのバックダンサー」
ではなく
「元○組にいた、OGの○○さんだ!」
という認識を持って、マツケンサンバを見ることができるため、同じマツケンサンバをみていても、得られる情報量がヅカオタの方が多い、というものである。
 
それと同じに、ワインショップに陳列されたワインなども、今までは、
「たくさんの、\\\\ワイン! ////」
だったのが、ワインの勉強をしたことで、
「この地域のこういう名称のワインだから、きっとこのブドウが使われているのかな?こんな味わいかな?」
と想像を巡らせることができるようになった。*16
 
ただ、こうやって1年真剣に学習しただけでも、ワインというものが奥深く、まだその入り口に足を踏み入れた程度なのだなということがよくわかった。
2次試験対策で買ったワインがたくさんあるので、これからゆっくり楽しみながら、いろんなトキメキをブログに綴りたいと思っている。

 

 

 

*1:ワインエキスパートとは、日本ソムリエ教会が実施する民間資格で、ソムリエとは異なり職務経歴が不問で受験できる資格である。

*2:所定の受験センターにてPC上で受験する方式の試験のこと。なお、1次試験は4択の選択式である。

*3:日本ソムリエ協会が出版する、ソムリエ試験およびワインエキスパート試験の公式テキスト

*4:応援しているタカラジェンヌのことを、宝塚ファンは、「贔屓」と呼ぶことが多い。

*5:2010年と2011年に3回だけ実施された検定で、1-3級まである。1級の試験は筆記のみならず、リスニング問題も出題された。

*6:かつてはワイン好きの人は全員蘊蓄好きという偏見を持っていた

*7:あまり自分から他人に話しかけたりしない私なのだが、初対面でバイブスが合ってしまい、柄にもなく、しかもこのコロナ禍に熱い抱擁を交わした仲である

*8:一般価格で5,880円(税込)

*9:オーストリアの大ヒットミュージカルで、宝塚歌劇でも何度も再演された作品。19世紀末のオーストリア=ハンガリー帝国皇后エリザベートの数奇な人生を、黄泉の帝王・トート(死)との関係性や愛憎を織り交ぜて描かれている。このセリフは、オーストリアからの独立を目指すハンガリーの革命家の一人が、ウイーンのカフェで、祖国愛から発言するセリフである

*10:世界三大貴腐ワインの一つで、製法やアルコール度、残糖度等によって品質区分が多岐に分かれている。かつては、ハンガリー以外の国でもトカイワインという名のワインが作られていたことがあったが、現在はハンガリーのブランドとなっている

*11:強火ヅカオタで酒好きの演出家・藤井大介先生によるワインをテーマにしたショー作品。藤井先生には本作以外にも、「Cocktail -カクテル-」「アクアヴィーテ (aquavitae) !! 〜生命の水〜」というお酒にまつわるショー作品がある。

*12:IBMP。ピーマン香のもととなる物質とされている

*13:イギリス生まれの大ヒット、ハッピーミュージカル。ロンドン下町生まれの主人公が、名門貴族の世継ぎとして成長する様を描いた作品。

*14:ME AND MY GIRLの舞台は1930年代のロンドン。大航海時代からスペインのシェリー酒はイギリスにて愛飲され、シェイクスピアの作品にも登場するなど、家庭から王宮まで広く愛されたようだ。一方でワインは宗教改革後に多くの土地が没収されたことなどを機に、王族・貴族以外がブドウ栽培を行うことはあっても、商業的なワイン生産はほぼなくなった。また19世紀半ばにはブドウの病害を機に、ワイン輸入を加速させるために関税は下げられたが、やはり上流階級の飲料の域を出なかったようだ。併せて20世紀前半には、戦時下の食糧不足で食糧生産が優先され、国内ワイン生産は途絶えたという。このため、下町育ちのビルにはワインを飲む習慣がそもそもなく、ヴィンテージワインという存在も知らず「腐っている」と発言したのだと思われる。

*15:A-“R”ex-如何にして大王アレクサンダーは世界の覇者たる道を邁進するに至ったか-」という作品で瀬奈じゅんさんは主人公・アレクサンダー大王を演じている。ちなみにこの作品の2番手・霧矢大夢さんの役名は、ギリシャ神話に登場する豊穣とブドウ酒と酩酊の神である「ディオニュソス」である。これもソムリエ教本のギリシャの章で出てくる内容である。

*16:もちろんワインは一つ一つに個性があるので、そういったもので一括りにできないことも沢山ある